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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

男はきせるを置いた。三之助は寝ころんで肱枕をしたままで顎をしゃくった。

「早くやんねえ、おらあ手向いはしねえよ、おらあこの家と一緒に自分の片をつけるつもりだった、今でもそのつもりなんだ、ひとおもいにさっぱりとな、……おらあ決して手向いはしねえぜ」

「それは本気か」男は右手をふところへ入れた、「本当に手向いはしねえか」

「おめえは律義らしいな」

「お上にも慈悲がある、神妙にすれば」

突風が来て雨戸を一枚また吹き飛ばし、部屋の中まで横さまに雨が吹き込んだ。男は身構えをしながら三之助を睨んだ。

「神妙にすればお上にも慈悲がある、神妙にお繩を受けるか」

「お慈悲だって」三之助の表情がするどく歪んだ、眼に憎悪の色があらわれた。しかしそれは殆んど瞬間のことで、すぐにまた嘲りと倦怠の顔つきに戻った、「ふん、お慈悲はこっちから進上、と云いてえが、まあいいや、早いとこやってくれ、さもねえとおめえもこの家と一緒に」

男は三之助にとびかかった。相手が寝ころんでいるにしては、びしびしと容赦のない動作だった。三之助は二度ばかり「うっ」と声をあげたが、反抗はしなかった。男は三之助をうしろ手に縛りあげ、壁際へひき据えて、立ちあがった。