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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

もしたんだ、口惜しいけれども、やっぱりおれも貧乏人の伜なんだ」

「人並なことを云うな、てめえはどれほどの人間だ」男がやり返した、「きいたふうなことを云やあがって、てめえは油屋を悪く云えた義理じゃあねえぞ」

「おめえにはおめえの理屈があるさ」

「きいたふうな口をききやがって、おぎんやおたい、お幸やおまさのことはどうなんだ、てめえにくどきおとされて、身を任せて、棄てられて、泣きをみているあの女たちのことはどうなんだ」

「そいつはおめえにゃあわからねえ」

「あの女たちのことはどうなんだ」と男はたたみかけた、「四人だけじゃねえ、ほかにもっとあるだろう。そんなにも弱い女たちに泣きをみせて、それでてめえは非道じゃあねえというのか」

裏で屋根瓦の割れる音がした。やみかかっていた風がまた烈しく、戸障子を揺りたて、庇をかすめてするどく咆えた。

「そうだ、非道かもしれねえ」三之助は低い声で云った、「けれどもしようがなかった、自分でもどうにもならなかったんだ」

「そう云えば済むと思うんだな」

「おめえにゃあわからねえ」

激しい風の唸りが彼の言葉を遮った。そして、そのするどい唸りにまぎれて、一人の娘がこの二階へ巧みに忍び込んだ。