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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

水の中にある娘の躯は裸であった。白い晒木綿の腰のもの以外にはなにも着ていなかった。泳いで来るために裸になったのであろう、白い腰のものだけが、水の中でひらひらしていた。

「あの人は息を吹き返したわ」

娘は激しく喘ぎながら云った。三之助に助けあげて貰いながら、両手で三之助にしがみつき、苦しそうに、二度ばかり水を吐いた。

「息を吹き返したわよ、あの人」云いながらおしげは泣きだした、「あの人だいじょぶよ、大丈夫助かってよ、三ちゃん」

三之助は娘を抱いて、元の六帖へ来て、抱いたままどしんと坐った。その震動で、東側の壁が崩れた。湿って緩んでいた壁が、上から崩れ、さらに大きく崩れ落ちた。

「一緒に死なせて、一緒に」娘は泣きながら叫び、裸の両腕で三之助の首に抱きついた、裸の胸を三之助の胸へ押しつけながら、身もだえをして叫んだ、「あんたがいなくちゃ生きていられない、あんたが死ねばあたし独りでも死ぬつもりよ、三ちゃん、ごしょうだから一緒に死なせて」

「わかったよ、おしげさん」三之助はうわ言のように云った、「勘弁してくれ、悪かった」

三之助は片手で娘の背中を撫で、娘の頬へ乱暴に頬ずりをした。