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あけみのうた

曙覧の歌

正岡 子規

「日本」日本新聞社、1899(明治32)年3月22日~24日、26日、28日、30日、4月9日、22日~23日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,667 字 · 26 页

青空文庫

なれといへるを聞て、俄にとはむとおもひなりぬ、ちひさき板屋の浅ましげにてかこひもしめたらぬに、そこかしこはらひもせぬにや塵ひぢ山をなせり、柴の門もなくおぼつかなくも家にいりぬ、師質心せきたるさまして参議君の御成ぞと大声にいへるに驚きて、うちよりししじもの膝折ふせながらはひいでぬ、すこし広き所に入りてみれば壁落かかり障子はやぶれ畳はきれ雨もるばかりなれども、机に千文八百ふみうづたかくのせて人丸の御像などもあやしき厨子に入りてあり、おのれきものぬぎかへて賤が著るつづりおりに似たる衣をきかへたり、此時扇一握を半井保にたまひて曙覧にたびてよと仰せたり、おのれいへらく、みましの屋の名をわらやといへるはふさはしからず、橘のえにしあれば忍ぶの屋とけふよりあらためよといへり、屋のきたなきことたとへむにものなし、しらみてふ虫などもはひぬべくおもふばかりなり、かたちはかく貧くみゆれど其心のみやびこそいといとしたはしけれ、おのれは富貴の身にして大厦高堂に居て何ひとつたらざることなけれど、むねに万巻のたくはへなく心は寒く貧くして曙覧におとる事更に言をまたねば、おのづからうしろめたくて顔あからむ心地せられぬ、今より曙覧の歌のみならで其心のみやびをもしたひ学ばや、さらば常の心の汚たるを洗ひ浮世の外の月花を友とせむにつきつきしかるべしかし