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こうや

曠野

小川 未明

「民政」1933(昭和8)年8月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,963 字 · 6 页

青空文庫

」

旅人は、子供の時分、釣りにいって、疲れた足を引きずりながら帰ったとき、また学校の帰りにけんかをして、先方はおおぜいだったとき、そんなときでさえ、あちらに、親しい松の木が見えると、もう家に着いたような気がして、急に勇気が百倍したことなどを思い出したのでした。そして、しばらく彼は、遠い昔の空想にふけっていましたが、あまり涼しいので、いい気持ちになって、そのまま木の根をまくらにして横になったのであります。

海のように、青い、青い空を、旅人はぼんやりと仰向けになってながめていました。小さな白い雲、ややそれよりも大きい雲、ほんとうに大きな白い雲、いくつかの雲が鬼ごっこでもしているように、追いつ、追われつしていました。

旅人は、このとき、忘れていた幼友だちの名まえと、顔つきをはっきりと思い出したのでした。そればかりでなく、自分もその仲間にはいって、いっしょに走りっこをしている姿を目に見たのであります。

「みんな、あの時分の友だちはどうしたろうな。」

そのうちに、いつしかいびきをかいて、ぐうぐうと眠ってしまいました。

松の木は、旅人のひとりごとをきいて、自分とよく似た木が、この地上のどこかに存在していることを知ったのです。