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さいしょのいんしょう
最初の印象
大倉 燁子
「別冊宝石 七巻九号」1954(昭和29)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,472 字 · 3 页
しかし、彼の言葉をほんととすれば、先生にはいろいろな面がおありだそうですから、お書斎での御生活はあるいはあの円満な社交とはきり離されておられるのかも知れません。それは外部のものの覗うことの出来ぬものでしょう。それからもっと、もっと面白い面も持っていらっしゃるのかも知れません。
先生を心から尊敬しほんとうに御親切な方だと思ったのは終戦後です。私はお金をつかい果して困った揚句、突然先生のところへ伺って本の出版についてお願いしたのです。時期がおそい、もう少し早かったら何んとかして上げられたのに、とおっしゃいました。私はがっかりして帰ると二三日過ぎてから、先生の御頼みである書店の主人が訪ねてくれました。私は救われたのです。時期を失してしまった私の出版について、先生がどんなにお骨折り下すったかはその書店の主人の口ぶりでも想像がつきました。
印税も一度に渡してしまうと直ぐ使ってしまうから、毎月に割って渡してやってくれとお言葉添えがあったそうです。そこまで考えて下さる御親切な方があるものか、とつくづく思いました、そして私はこの時この御親切は一生忘れまいと心に誓ったことでした。