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つきかげ

月かげ

豊島 与志雄

「婦人公論」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,867 字 · 14 页

青空文庫

その眼が、貝殼のような濁った光りではあるが、それが却って一寸美しかった。見ているうちに、私もつい引き込まれて、頬のあたりに笑いが浮んできた。そして私達は一緒になって、何という故もなく微笑み合っていた。

そこへお光が私の所にやって来た。私は彼女に真正面から微笑みかけた。彼女も頬辺でにっと笑って応じたが、その顔をすぐに引締めた。

「何だか変でしょう。」

声を低めた調子がただごとでなかった。

「何が。」

隈取った小さな眼を無理に大きく見開いて、肩の影から指先で、彼方の青年をさし示した。

「どうかしたのかい。」

「ええ。……そして、あんなに一人でにやにやしてて、どうも可笑しいのよ。」

「なあんだ、そんなことか。それじゃ僕も今にこにこしてたから、変なののお仲間だね。君だってよくにこにこしてるじゃないか。」

云われてからにっこり笑ったが、またすぐに真顔になった。

「いいえ、ほんとに変なんですよ。先刻ね、一人で酒を飲んでるうちに、ふいに大きい声で泣き出してしまったのよ。他にも七八人お客さんがいたのに、その人前も構わずに、随分長い間泣いてたのよ。はたから何と云っても、まるで聾のように返辞一つしないで、ただしくしく泣いてるんでしょう。