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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

いつか、君がそのことを話したじゃないか」

「八時半ごろよ、毎晩」

あけみは、いぶかしげな表情で答えた。

「うまい。四十分以上の余裕がある。どんな通行人よりも、パトロールは最上だ。それまでにやることが山のようにある。一つでも忘れてはいけないぞ。……女中は大丈夫あすまで帰らないね。月は曇っていないね……」

彼は窓のところへ飛んで行って、黄色いカーテンのすきまから空を見た。一点の雲もない。満月に近い月が、ちょうど窓の正面に皎々と輝いている。

(なんという幸運だ。この月、パトロール、女中の不在。まるで計画したようじゃないか。あとは、あけみさえうまくやってくれりゃいいんだ。それも大丈夫、あれは舞台度胸は申し分がない。それに男役には慣れている。おれは人殺しを全く忘れて、舞台監督になるんだ。この際、恐怖は最大の敵だぞ。恐れちゃいけない。忘れてしまうんだ。あすこに倒れているやつは人形だと思え)

克彦は強いて狂躁を装った。そして軽快に、敏捷に、緻密に立ちまわることに、意力を集中しようとした。

「あけみ、僕らが幸福になるか、不幸のどん底におちいるか、それは今から一時間ほどのあいだの、君と僕との冷静にかかっている。