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つきとてぶくろ

月と手袋

江戸川 乱歩

「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页

青空文庫

「花田さんも、なかなか詩人ですね。血なまぐさい犯罪捜査の中にも、時には詩があるでしょうね。物の哀れもあるでしょうね」

「物の哀れはふんだんですよ。僕はどうも犯人の気持に同情するたちでしてね。わるいくせです。捜査活動に詩人的感情は大禁物です」

そして、ふたりは声を合せて笑ったものである。

そんなふうにして、事件から二カ月近くもたった頃、ある日、また花田が訪ねて来て、克彦をギョッとさせるような話をした。

「私立探偵の明智小五郎さん、ご存知でしょう。僕はもう六、七年も懇意にしているのですが、やっぱりいろいろ教えられるところがありますね。あの人のちょっとしたヒントから、捜査に成功した例も少なくありません。昔は、民間探偵なんかに智恵を借りに行くのは、大警視庁の名折れだといって、うるさかったものですが、この頃では、だいいち僕の方の安井捜査一課長が明智さんの親友ですからね。誰も悪くいうものはなくなりましたよ」

これは克彦にとって、全くの不意うちであった。わきの下から、冷たいものがタラタラと流れた。顔色も変ったかも知れない。

(しっかりしろ。こんなことで顔色を変えちゃ、折角の苦労が水の泡じゃないか。