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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
(まずいことをした。こんな男を、心やすく出入りさせたのが失敗のもとだ。これも平気を装う逆手だったが、それがやっぱりいけなかった。しかし、これは警視庁捜査課の智恵じゃないぞ。明智小五郎のさしがねにきまっている。明智の体臭が漂っている。恐ろしいやつだ。あいつはそこまで想像したんだな。だが、むろん単なる想像にすぎない。試しているんだ。この試錬にうち勝つかどうかで、おれたちの運命がきまるのだ。なにくそッ、負けるもんか。相手は花田じゃない。目に見えぬ明智のやつだ。さア、なんでもやって見ろ。おれは平気だぞ。証拠のないおどかしなんかに、へこたれるおれじゃないぞ。……だが、あけみは? ああ、あけみは女だ。事は女からバレるのだ……)
彼はとなりのあけみの腕をグッと握った。「しっかりしろ」と勇気づけるために、男の大きな手でグッと握ってやった。
「淑女紳士諸君、ただいまのは、ほんの前芸、これより、やつがれ十八番の本芸に取りかかりまあす。ハイッ」
花田は調子にのって、うきうきと口上を述べた。そして、横で笑いこけている女中のきよを手まねきして、かたわらに立たせ、
「持ちいだしましたるは、レーンコートのベルトにござります」