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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
抜くよりは入れるがむずかしい。首尾よくまいりましたら、ご喝采……」
またハンカチの下でモゾモゾやり、パッと手をあげたときには、最初の通り、両の手首がベルトで厳重にしばられていた。克彦とあけみは、また心にもない拍手をした。こわばった顔で、手先だけをうち合わせた。
「ハハハハハ、どうです。見事なもんでしょう。さア、これで手品はおしまい。夜も更けたようですから、おいとましますが、お別れにもう一杯」
花田はテーブルの上のグラスに手ずからジョニー・ウォーカーをついで、それを顔の前にささげながら、ヨロヨロとソファの方へやって来る。同じソファにかけられたら、あけみがふるえているのを悟られる。相手が来ぬ先に、克彦はサッと立ち上がって、自分もテーブルのグラスをとり、ウィスキーをつぎながら、
「さア、乾杯、乾杯!」
と叫んで、花田の前に立ちはだかり、杯をカチンと合わせた。グッとほして、お互の肩を叩き合う。
「あ、そうそう明智さんがね。あの日はどうしてあんなに月がさえていたのだろう。偶然の一致だろうか、それとも、と小首をかしげていましたっけ。ハハハハハ、じゃ、これでお開きといたしましょう」