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げっせかいばっしょうき

月世界跋渉記

江見 水蔭

「探検世界 秋季臨時増刊 月世界」成功雑誌社、1907(明治40)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,132 字 · 19 页

青空文庫

それから助手というのは一人は山本広、一人は卯山飛達といって、ともに博士の手足となって数年来この事業のために尽瘁しているという、至極忠実なる人々だ。日本東京を出発してから十六日目、いよいよ月に近いた時に、不意に飛行器に狂いが生じて遂々こんな珍事が出来したのだ。

将碁倒しになって気絶していた一行の中で、最先に桂田博士が正気に返ってムクムクと起き上った。半ば身を立てて四辺を見ると実に何ともいわれない悲惨な有様だ。

自分らの這入っていた一室はどうにか壊れずにいるが、部屋の中は宛然玩具箱を引繰り返したように、種々の道具が何一つとして正しく位置を保っているのはなく、悉く転倒して、そこら一面に散在っている中に、月野博士を初め助手も二少年も、折り重って気絶している。

博士は立ち上ろうとしたが、先刻の衝突で酷く身体を打ったと見えて、腰の関節が痛んで中々立てそうもない。やっと我慢して這いながら室の隅まで行って、壊れた棚から一つの薬箱を取り出して呑むと、少しは心地よくなったので、まず一番手近な山本を抱き起して薬を呑ませると、暫くしてようよう息を吹き返した。二人ながらまだ半病人だが互に協力してほかの一同に同じように薬を呑ませると幸にも皆正気に復したが、いずれもいずれも死人のような真蒼な顔をしている。