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ふくそうについて
服装に就いて
「文藝春秋」1941(昭和16)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,180 字 · 25 页
どうも普通のステッキでは、短かすぎて、思い切り突いて歩く事が出来ない。すぐに、いらいらして来るのである。丈夫で、しかも細長いあのピッケルは、私には肉体的に必要であったのである。ステッキは突いて歩くものではない、持って歩くものであるという事も教えられたが、私は荷物を持って歩く事は大きらいである。旅行でも、出来れば手ぶらで汽車に乗れるように、実にさまざまに工夫するのである。旅行に限らず、人生すべて、たくさんの荷物をぶらさげて歩く事は、陰鬱の基のようにも思われる。荷物は、少いほどよい。生れて三十二年、そろそろ重い荷物ばかりを背負されて来ている私は、この上、何を好んで散歩にまで、やっかいな荷物を持ち運ぶ必要があろう。私は、外に出る時には、たいていの持ち物は不恰好でも何でも懐に押し込んでしまう事にしているのであるが、まさかステッキは、懐へぶち込む事は出来ない。肩にかつぐか、片手にぶらさげて持ち運ばなければならぬ。厄介なばかりである。おまけに犬が、それを胡乱な武器と感ちがいして、さかんに吠えたてるかも知れぬのだから、一つとして、いいところが無い。どう考えても、絹ものをぞろりと着流し、フェルト草履、ステッキ、おまけに白足袋という、あの恰好は私には出来そうもないのである。