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ふくそうについて

服装に就いて

太宰 治

「文藝春秋」1941(昭和16)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,180 字 · 25 页

青空文庫

いまは、もう、一まいの着物も母から送ってもらえない。私は、私の原稿料で、然るべき衣服を買い整えなければならない。けれども私は、自分の衣服を買う事に於いては、極端に吝嗇なので、この三、四年間に、夏の白絣一枚と、久留米絣の単衣を一枚新調しただけである。あとは全部、むかし母から送られ、或る種の倉庫にあずけていたものを必要に応じて引き出して着ているのである。たとえばいま、夏から秋にかけての私の服装に就いて言うならば、真夏は、白絣いちまい、それから涼しくなるにつれて、久留米絣の単衣と、銘仙の絣の単衣とを交互に着て外出する。家に在る時は、もっぱら丹前下の浴衣である。銘仙の絣の単衣は、家内の亡父の遺品である。着て歩くと裾がさらさらして、いい気持だ。この着物を着て、遊びに出掛けると、不思議に必ず雨が降るのである。亡父の戒めかも知れない。洪水にさえ見舞われた。一度は、南伊豆。もう一度は、富士吉田で、私は大水に遭い多少の難儀をした。南伊豆は七月上旬の事で、私の泊っていた小さい温泉宿は、濁流に呑まれ、もう少しのところで、押し流されるところであった。富士吉田は、八月末の火祭りの日であった。