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ふくそうについて

服装に就いて

太宰 治

「文藝春秋」1941(昭和16)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,180 字 · 25 页

青空文庫

私は、やはり腹黒く、自分の罪をその友人にも女中さんにも、打ち明けることはしなかった。その夜おそく雨が小降りになったころ私たちはその料亭を出て、池のほとりの大きい旅館に一緒に泊り、翌る朝は、からりと晴れていたので、私は友人とわかれてバスに乗り御坂峠を越えて甲府へ行こうとしたが、バスは河口湖を過ぎて二十分くらい峠をのぼりはじめたと思うと、既に恐ろしい山崩れの個所に逢着し、乗客十五人が、おのおの尻端折りして、歩いて峠を越そうと覚悟をきめて三々五々、峠をのぼりはじめたが、行けども行けども甲府方面からの迎えのバスが来ていない。断念して、また引返し、むなしくもとのバスに再び乗って吉田町まで帰って来たわけであるが、すべては、私の魔の銘仙のせいである。こんど、どこか旱魃の土地の噂でも聞いた時には、私はこの着物を着てその土地に出掛け、ぶらぶら矢鱈に歩き廻って見ようと思っている。沛然と大雨になり、無力な私も、思わぬところで御奉公できるかも知れない。私には、単衣はこの雨着物の他に、久留米絣のが一枚ある。これは、私の原稿料で、はじめて買った着物である。私は、これを大事にしている。