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あさのかぜ

朝の風

宮本 百合子

「日本評論」1940(昭和15)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,605 字 · 31 页

青空文庫

そのまるむきな小さい女を画家は荒い筆触で、二つの目の見開かれた大の腕のつけ根や腹の暗翳だのを誇張して表現しているのである。

乙女。乙女。サヨは計らず再会したこのいじらしい昔馴染の名を心で切なく呼んだ。はだかになったところをこの画家が描いている。いかにも乙女らしく媚びることも知らず描かれているが、そこに語られている意味が何をあらわしているか、乙女は思って見たのだろうか。画家が何を現わそうとしているにしろ、乙女がそこにそうやっているそのことに、切ないものがある。それを知っているのだろうか。

雑誌をとじて、サヨは椅子の背に頭をよせかけていた。

蒸し暑いまま夜が明けはなれて来た。窓のすぐ外のプラタナスの街路樹がだんだん緑の葉色を鮮やかに見せて、朝日の条がその上に燦き出した。

突然どこか階下の方で、一声高く赤坊のなき声がした。サヨは反射的に椅子から立ち上ったが、割合しっかりした男の子の声だったように思えて躊躇していると、看護婦が廊下を走って二階の階段をこっちへのぼって来たのがわかった。急に動悸しはじめたのを感じながら、サヨは丁度看護婦が階段をのぼり切ったところへ出会い頭に出て行った。