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きそおんたけのりょうめん
木曽御嶽の両面
吉江 喬松
「太陽」博文館、1908(明治41)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,819 字 · 32 页
ほっと息をついた。足も自ら急がれた。
湯煙りが上り、靄が白くゆらゆら立ちのぼる中に百六十軒の人家が並んでいる、賑かに歌をうたう声が聞えている。実際思い掛けない所を見付けたような気がした。その中の大きな家を一軒見付けて泊った。湯は炭酸泉だ、外湯で、大きな共同の浴場が出来ていて、皆下駄を穿いてその湯に這入りに行く。
翌朝目がさめて戸外へ出て見ると、雲が晴れ上って、西の方に当って連峰の上、槍ヶ岳の尖頂は雲を突裂いて立っている。温泉の直ぐ後方からは乗鞍岳つづきの連山が、ごたごた聳えたっていて、今日越すのは、この連山の間の安房峠というので、これを越して白骨温泉へ出ると、都合二回、――一度は表から裏へ、今度は裏から表へ、日本アルプスを横断した事になるのだ。
一行は身仕度をして直ぐ裏山から登り初めたがなかなか急峻だ。折れ曲り折れ曲りして草深い中を行く、風は涼しいが藪が繁っているので熱苦しい。少し登ると昨日越して来た平湯峠が目にはいる。
ちょっと、曲り角に休んでいると、上の方で「アハハハハハ」と笑い声がするので、ぎょっとして見上げると、昨日の老爺が上の岩角で休んでいた。