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こがらしのさかぐらから

木枯の酒倉から

坂口 安吾

聖なる酔っ払いは神々の魔手に誘惑された話

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,163 字 · 22 页

青空文庫

茨よりほかの物を、俺には想像ができなかったから。

俺は禁酒を声明した。肉体的、経済的、ならびに味覚的に於てすら、酒そのものが俺にはけして愉快なる存在ではなかったからだ。無論禁酒を声明した程だから昔は酒を呑んだんだ。あべべい、酒は茨だねえ、不快極る存在じゃよ、と言いながら。

酒は君、偉大なる人間の理性を痺らせるものじゃよ。酒はあぱぱいじゃ。汝の明朗なる人間的活動は忽ちにして神の如く曇るぞよ。おそれよ、おそれよ、という忠告は遺憾ながら俺の為にはペチシオ・プリンシピイの誤謬を犯している。

俺の理性が痺れうるものならば――余は酒樽の冠を被り樫の大いなる觴を捧げ奉って、ロンサルの如くたちどころに神に下落するぞよ。

――愛する友よ。君は人間として甚だいたらん男じゃ。酒呑めば酒と化すことを、人間はその誇りとするものじゃよ。まま、ええさ。唄いかつ踊り、寂しげなる村々を巡礼して悩みを悦びの如く詩にあらわし、一文の喜捨にも往昔の騎士に似て丁重なる礼を返し、落日と共に塒を求めて山毛欅の杜へ消え去るのも一つの修業方法であるな。旅は人の心を空ッポにするものじゃよ。そのくせひどく感動しやすくなるもんだから、貴公のような鈍愚利でも時あれば泌むように酒が恋しくなるかも知れん。