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もくばはまわる

木馬は廻る

江戸川 乱歩

「探偵趣味」探偵趣味の会、1926(大正15)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,819 字 · 20 页

青空文庫

「じゃあ、またあしたね」

そして、ある四つ辻で別れる時には、お冬は極った様に、少し首をかしげて、多少甘ったるい口調で、この様な挨拶をしたのである。

「ああ、あしたね」

すると格二郎も、一寸子供になって、あばよ、しばよ、という様な訳で、弁当箱をガチャガチャ云わせて、手をふりながら挨拶するのだ。そして、お冬のうしろ姿を、それが決して美しい訳ではないのだが、むしろ余りにみすぼらしくさえあるのだが、眺め眺め、幽かに甘い気持にもなるのであった。

お冬の家の貧乏も、彼の家のと、大差のないことは、彼女が館から帰る時に、例の青木綿の洋服をぬいで、着換えをする着物からでも、充分に想像することが出来るのだし、又彼と道づれになって、露店の前などを通る時、彼女が目を光らせて、さも欲し相に覗いている装身具の類を見ても、「あれ、いいわねえ」などと、往来の町家の娘達の身なりを羨望する言葉を聞いても、可哀相に彼女のお里は、すぐに知れて了うのであった。

だから、格二郎にとって、彼女の歓心を買うことは、彼の軽い財布を以てしても、ある程度まではさして難しい訳でもないのだ。一本の花かんざし、一杯のおしるこ、そんなものにでも、彼女は充分、彼の為に可憐な笑顔を見せて呉れるのであった。