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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
私は机の抽出から洋封筒を取出してみた。中をあらためると、やはり十円紙幣が五十枚ちゃんとはいっていた。その束を掌の上にのせてみると、軽やかな中にも何だかずっしりとした重みを含んでるようだった。私はその一枚をぬき取って仔細に眺めた。冠を頂いた誰かの肖像や神社などを刷り込んだ表面よりも、凡てが模様化された裏面の方がずっといいと思った。それから、全体の色と紙質とが非常にいい。両手で引張ったり爪先ではじいたりしてみると、緻密な強靱な音を立てる。しまいに私は何気なく、それを日の光りに透してみた。すると、アラビヤ数字で十と刷り込んである下に、五七の桐の模様がありありと浮出してきた。表からも裏からも見えないように、紙の中に漉き込んであったのだ。私はこの意外な発見に一層嬉しくなった。嘗て必要以外の金を手にしたことのなかった私には、不意に舞い込んできたその紙幣が、貴い玩具のようにさえ思えてきた。兎に角、五七の桐を漉き込んだこの五十枚の紙片があれば、可なり面白いことが得られそうな気がした。
私はそれをまた洋封筒の中にしまって、それから、念のために――全く念のために、伯父の手紙をもう一度読んでみた。