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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
それから、フランス製の上等のカンヴァスを、四十号のを三枚求めた。四十号大の半身像を描くつもりだった。画筆なども新らしく一揃い買った。そして帰りに、額縁屋に寄って見ると、丁度私の気に入ったのが一つあった。
それらの代価を支払うのに、私は懐から洋封筒を取出して、無雑作に紙幣を引出した。気がついてみると、番頭がじっと私の手元を眺めていた。私は一寸極り悪い思いをした。初め五百円の金を銀行で受取った時、私は何の気もなく自分の蝦蟇口を懐から出したが、札束が余り嵩張っているので、慌てて蝦蟇口を懐にしまい、札束を手に握ったまま、こそこそと逃げ出したものだった。それで結局、二度極り悪い思いをしたわけだった。私は立派な革の紙入れを買おうと思った。然し、それがどの位の価のものであるか分らなかったし、またそんな物にこの楽しい金を費したくもなかった。
家へ帰ってみると、洋封筒の中には、なお二百七十円余り残っていた。私はそれを丁寧に本箱の抽出にしまった。
途中で買ってきた敷島を一本取って、胸深く吸い込んだ。口と鼻とから吐き出すもやもやとした煙の間に、煙草の先から出る紫の煙が一筋にすーと立ち昇ってゆく。