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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

その笑いのなかにおとなしくない何かが滲み出して感じられたのであった。

「あら、もうこんな時間! こんな愚痴云ったりして、山崎に分ったらまた叱られるわ」

はたからの言葉で解決しようのないままに琴子をバスまで送って行って、峯子は市場へまわった。この市場では時間をきめて玉子を一人に百匁まで売っているのである。飼料の価格をきめないで、玉子の方だけ値をきめたから出っこないですよ、そんな話を売子の男がした。

慎一は、今晩は勤め先の会議でおそくなる。

「さあ照ちゃん、今晩はさし向いよ、凄いわねえ」

そんなことを云いながら、さみしいような賑やかなような夕飯を早くすませ、照子をねかしつけてから、峯子は、とりかかっている少年小説の翻訳のつづきをもち出した。今のは二つめの仕事で、初めのは本になっていた。一昨年の夏補充がどんどん出て、慎一も身仕度の用意をはじめた。丁度その時分、社から一年ちがいで出征する人があった。送別会から珍しく赤い顔をしてかえって来た慎一は、濡れ手拭で背中をゴシゴシ拭きながら亢奮ののこっている口調で、

「鈴木の奴、よっぽど気がかりなんだな、くりかえし細君のことをたのんで行ったよ。