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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

ゆっくりする暇がないというので、とりあえず親しくしている二三人を銀座の方へその昼によび出した。同じ学校出だから、飯島も専攻は語学だが、函館のある商館につとめていて、そこが今度南洋へ手をのばすについて、関係方面への折衝に来たのであった。

耳馴れない南洋の島々の名をいくつかあげて、複雑な背後のいきさつをほのめかしながら喋っていた飯島は、

「用事というのはまあそんなとこだがね」

ズボンのポケットへ両手をつっこんで、チューブ椅子の上で胸を張る姿勢をとり、

「それとは別個に、今度は僕も大いにやるぞ」

慎一は思わず笑った。

「ひどく意気込むじゃないか」

函館でばかり暮した五六年のうちに、学生時代からどっちかというと大まかであった飯島の表情は、額、眉、頬のあたりへかけて肉の厚みと濃い血色とを加えた。それが彼の胸の前に下っているあらい斜縞のネクタイのコバルト色との対照で、最初の一瞥から慎一の心に彼らしさの親しみと一緒に漠然哀感に似たものをよびさましているのであった。

外字新聞社にいる戸山が、持前のやや皮肉な笑いを鋭く聰明らしい黒い眼の中に輝やかして、

「大陸へでも乗りこむか」