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すぎこ

杉子

宮本 百合子

「新女苑」1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页

青空文庫

「教えっこをした方は立って御覧なさい」

津本先生の声に応じて席に立ったのは、クラスの半数を超えた。出来ないひとばかりでなく、その中には首席の池田紀子もいる。立つものが当惑しながらも寧ろ悪びれず立っているのに、坐ったまま坐席にのこっている者たちは首を堅くして正面を見据えたり伏目になったりしていて、そのことで自分たちから恥辱を撥ねかえそうとするような暗さを醸し出している。ふっくりした手先を机にふれさせながら立っている杉子の頭の中に、その時高く響くような調子で「いずれを義とするや」という文句がはっきりきこえた。行為のきれいさ、きたなさとはどういうことを云うのだろう。

杉子のその疑問が別の声となって溢れたように、

「先生」と、立っている群の中から池田紀子がよびかけた。

「私たち、よくなかったと思いますけれど、決していやな動機でしたことではなかったと思います」

「それはそうでしょう。二年御一緒に勉強して来て、あなた方がそんな卑劣だとは私にとても思えません」

そのことで沈痛さは軽くされない語調で津本先生は、考え考え答えた。

「けれどもね、もし岡先生が教室にいらしても、あなたがたは同じことをなすったでしょうか。