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すぎこ

杉子

宮本 百合子

「新女苑」1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页

青空文庫

杉子は、優しい沈んだ様子で、どこか柔かい仔猫のような身のこなしで、隣の籐椅子の上から母の毬子の肩のところへ顔をもたせかけていた。毬子は満足そうに、おだやかに新聞を見ている。この昔の正直な女学生のまま年をとったようなところのある母が今度の事件を知ったら、どんなにびっくりするだろう。試験のとき教えっこしたりするのはわるいこと、だから決してしてはならないこと。結婚する迄好きなことを勉強するのは悪いことでないけれど、結婚したらいつとなしにそんなことも忘れてしまって一生暮して不思議とも考えないこと。それらは何の疑いもなく、この小皺のたたまれた一応は賢い額の奥に伝統の場所を得て納められているのだ。

「ねえ、かあさん」

杉子は、そーっと母の顎のあたりを撫でながら、あらわし尽せない感慨をこめて云った。

「ねえ、かあさんは、きっとずいぶんハイカラな女学生だったんでしょうねえ」

毬子は、

「ふ、ふ」

と笑った。

「西洋人の先生何て呼んだの、マリって云った? それともメアリって云った?」

「そりゃ、ミス・セタって呼んだのさ」

この母が、杉子の今心に思っていることをすっかり知ったら何と云うだろう。