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すぎこ
杉子
宮本 百合子
「新女苑」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页
と云った。居合わせたものは思わずふき出して、杉子は、
「じゃ、忘れないでおばあちゃまにそう云うわ」
行一の日焦けした小さいかたい男の子の手を約束のしるしのように握って来た。
電車の中も降りた駅の附近も今日は子供づれが多くて、天気の好い日曜のそんな四辺の空気に誘い出されたように、ずっと遠くまで見晴らしのきく線路沿いの堤の黒い柵のところで子供に電車を見せている兵児帯姿のいい年輩の男の人もいる。その下駄の足許には短いけれど青々とした草も萌え立っているのである。
道すがらのいろんな光景は平凡なりに杉子の心に溌剌と映って、杉子はのんきなような何処かちょっと気にかけている思いもあって、春らしい艶の桜の枝の下を歩いている自分の気持も面白く感じられた。
友雄は留守の間に来てしまったかしら。杉子は歩きながら手頸の時計を見た。三時すこしまわっている。
今朝神戸の二番目の姉のところから味噌漬の牛肉が届いた。母の毬子は日づけを見ると急に忙しそうな顔になって、
「おや、きょうあたりがたべ頃よ。困ったのね。準次さんの大好物だから、どうせわけるなら漬けすぎにならないうちにたべさせたい」