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むらからのむすめ
村からの娘
宮本 百合子
「文化集団」1935(昭和10)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,485 字 · 9 页
私にとって、これは忘られぬ話となった。大衆の自発的な力はすっかりつぶれてしまったように思われ、思わせられている今日、この話は深い教訓をもっている。我々をつき動かす内容をふくんでいるのである。
足かけ三年前、『働く婦人』という婦人のための雑誌が出ていた時分、一般の婦人雑誌がとりあげるに先だってそこの婦人の記者が東北飢饉地方を視察にゆき、その記事を連載したことがあった。現実を正しく反映するそういう種類の婦人雑誌がなくなることも、今日叫ばれている身売り防止事業の本質を理解するとき、改めて私共にうなずけるのである。
先頃新聞に、飢饉地方から出て来た娘さんの一人が、或る義侠心にとんだ若い大工さんの嫁に貰われ、幸福な新世帯をもったという記事が出た。丈夫そうに白い歯並をニコニコと見せ、股引に小肥りの膝をつつんで坐っている若い大工さんと一つ火鉢にさし向いに坐った花嫁さんが、さも恥しげに重い島田をうつぶしている姿を撮影した写真は、何十万人かの新聞読者の口元を思わずほころばせたであろうと思う。私は、この若い大工さん夫婦の姿に暖い優しい情愛を感じたのであったが、この実に万ガ一の好運にめぐりあった娘さんの身上は、更に何千人か飢えた田舎から東京に出ている娘さんの心に、どんなにか謂わば当のない期待を抱かせたであろうか、と思った。