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むらいちょうあんないれのからかさ
村井長庵記名の傘
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,794 字 · 16 页
「へえへえそううまく行きますれば、この世に苦の種はござりませぬが、あの子は昔から体が弱く……」
「おっとドッコイそれは大丈夫だ。長庵これでも医者だからな。お種は大事な俺の姪、病気だとでも聞こうものなら、すぐに駆け着け匙加減、アッハハハ癒して見せるよ」
「どうぞお願い致します」と十兵衛は質朴な田舎者、つつましく頭ばかり下げるのであった。
「ところで」と長庵は白い眼でジロジロ相手を見遣ったが、
「こう云っちゃ兄弟の仲で恩にかけるようで気恥かしいが、田舎者のあのお種を、六十両で篏めたのは、この長庵が口を利いたから、これが慶庵の手へかかればこう旨くは行くものでねえ」
「ハイハイそれは申すまでもなく、今度の事は義兄さんのお蔭、仇や疎かには思いませぬ」
「何せ江戸はセチ辛くそれに人間は素ばしっこく、俗に活馬の眼を抜くと云うが、どうしてどうして油断は出来ねえ」
「ハイハイ左様でございましょうとも」
「近い例が女泥棒だ」
「女泥棒と仰有いますと?」
「花魁泥棒と云ってもいい」
「花魁泥棒と申しますと?」
「なるほどお前は田舎の人、噂を聞かぬはもっともだが、近来江戸へ女装をしたそれも大籬の花魁姿、夜な夜な出ては追剥、武器と云えば銀の簪手裏剣にもなれば匕首にもなる。