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むらいちょうあんないれのからかさ

村井長庵記名の傘

国枝 史郎

「ポケット」1925(大正14)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,794 字 · 16 页

青空文庫

「それには深い子細がござる」道十郎は暗然としたが、

「実は朋友を救うため好んで浪人したのでござる」

「朋友をお救いなさるため? ははあ左様でございますか」

「お話し致そう、お聞き下され。……今から思えば五年の昔、拙者二十九の春のことでござるが殿に一羽の名鶯がござって、ご寵愛遊ばされ居られました所、拙者の朋友間瀬金三郎誤って籠から取り逃がしましてござる」

「やれやれそれはとんでもないこと」

「しかるに金三郎には妻子の他に老いたる父母がござりましてな、もしも浪人することとならば一家たちまち零落し、恩ある父母を養うこともならぬ。これが何より心掛かりと、拙者にむかって掻き口説きましたれば、はなはだ憐れにも気の毒にも思い、拙者金三郎の身代わりとなり、名鶯取り逃がしの罪を負い、殿より永の暇を賜わり、さてこそ浪人致したのでござるよ」

「お聞き致せばお気の毒。いや天晴の義侠心、何と申してよろしいやら。さような事情のご浪人なれば、ご親友はじめ重役衆まで何とか殿様にお取りなし致し、至急帰参出来ますよう取り計らうが人情でござるに、それを今日まで打ち捨て置くとは、義理知らずではござりませぬかな」