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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 页

青空文庫

「お黙りなさい、でないと――」

町が鋭く叫んだ時、一団の酔った武士たちが近寄って来て、

「やあやあ怪しいぞ」

「螢を追って暗闇まぎれ、うまいことをやっているな、どんな果報者か顔を見せろ」

由来、薩摩と仙台は気風が暴い、酔漢たちはたちまち二人の周囲を取巻いたが、山根道雄は早くもこそこそと逃げてしまった。

「はははは、どうやら家中の若蔵らしかったが、獺のように消えおったぞ」

「なに男などはどっちでもよい、それよりまず怨敵を逃がさぬようにしろ。や――これは凄いぞ、螢の精が化けてきたか、まるで輝くような美人だぞ」

「どれどれ拙者にも拝ませろ」

「ええうぬ、そう無闇に押しこくるな」

酒臭い息を吐きかけながら、わいわいと詰寄って来る。――町は逃げるにも逃げられず、どうなることかとおろおろしていると、

「やあ、いずれもたいそう御機嫌だな」

と声をかけながら近寄って来た者がある、見ると松林蝙也だった。

「なんだそこにいるのは町ではないか」

そう云われて、町は救われたように男たちのあいだからすり抜けた。――酔いどれたちも蝙也の顔は知っていた。

「これは松林先生……」

「お揃いで螢見物かな。