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まつばやしへんや

松林蝙也

山本 周五郎

「キング」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,092 字 · 25 页

青空文庫

「おまえらしい返辞だな。俺はいつか約束したとおり、おまえが俺を驚かし、俺に参ったといわせることができたら、いつでも暇をやる覚悟でいる、――決してそれを反古にしようとは思わない、けれどもし……」

「いえ!」

町は急に蝙也の言葉を遮った。

「いえ、どうか何もおっしゃらないでくださいまし、そしてわたくしにお約束を守らせてくださいまし、――どうぞ……」

「そうか」

蝙也は静かに頷いて、

「それではやはり――」

と云いかけた刹那だった、――いつか背後へ忍寄っていた門人の渡辺寛太郎(蝙也は頑太郎と呼んでいた)が、呼吸を計って突然、だっと蝙也の背を突放した。

「あ、あれ!」

町が驚きの声をあげるのと、蝙也の口からやっという気合の出るのと同時だった、そしてまさに水に突落したと見た蝙也は、化性の物のように彼岸の堤に立って、

「ならぬならぬ、駄目だぞ頑太郎」

と笑っていた。

跼みこんで話し耽っているまったくの虚だ、体も神も隙だらけの一点を狙った奇襲だ、あの鋭い仕掛けをどう受けたか、あの体勢でどうして二間に余る川を跳越えたか、まるで謎のような早業である。

――なんという見事な!

思わず歎賞しながらも、町はその反面に例の肯かぬ気が強く盛上ってくるのを感じて、