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まつかぜのもん
松風の門
山本 周五郎
「現代」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,862 字 · 26 页
……そしてそのようすを、朽木大学だけが、眼をうるませて覓めていた、今にも涙の溢れ出そうなまなざしだった。
「起て」宗利は叱した、「沙汰するまで閉門を申付ける」
そして暴々しく奥へ去った、一揆は、然しそれで逆転した、八郎兵衛の思切った方法が功を奏したのであろうか、騒擾は其日の内に鎮まって、検地の事もいつ始めてもよいという状態にまで解決した。
宗利は予想外の結果に驚いた。彼の考えでは、血を見た農民たちは更に兇暴になって、恐らく城兵を動かさなくてはならぬ事になるだろうと案じたのである。もしそうなれば、大名取潰しの機会を覘っている幕府の好餌となるに違いない。僅か二代にして宇和島の家名を喪ったら、父祖の霊にどう云って詫びられるか、そこまで心をいためていたのであった。
「七万石の拾い物であったな」凡てが無事に納まり、検地の竿入れが始められたという知らせがあったとき、宗利は久しぶりでのんびりと大学ひとりを伴れて城内の庭へ出て行った、ずいぶん久しぶりで歩く庭だった。暖かい冬の陽ざしが天守の白壁に眩しいほど輝いていた。「こうなると八郎兵衛にも多少は怪我の功名を認めてやらなければなるまい、然し斬ることはなかった、三人も斬るなどとは」