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まつかぜのおと

松風の音

和辻 哲郎

「心」1961(昭和36)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,465 字 · 3 页

青空文庫

てしまう。この対照は、常緑樹と落葉樹というにとどまらず、剛と柔との極端な対照のように見える。が一層重要なのは枝のつき工合である。松の枝は幹から横に出ていて、強い弾力をもって上下左右に揺れるのであるが、欅の枝は幹に添うて上向きに出ているので、梢の方へ行くと、どれが幹、どれが枝とは言えないようなふうに、つまり箒のような形に枝が分かれていることになる。欅であるから弾力はやはり強いであろうが、しかしこの枝は、前後左右に揺れることはあっても、上下に揺れることは絶対にない。松の風の音は、右のような松の葉が右のような松の枝に何千何万と並んでいて、風によって上下左右に動かされて立てる響きなのであるが、欅の風の音は、右のような欅の葉が右のような欅の枝に同じく何千何万と並んでいて、風によってただ前後にだけ動かされて立てる響きなのである。それが非常に違うのは当然のことだと言ってよい。

松風の音に伴って起こってくる連想は、パチッパチッという碁石の音である。小高いところにあるお寺の方丈か何かで、回りに高い松の樹があり、その梢の方から松籟の爽やかな響きが伝わってくる。碁盤を挟んで対坐しているのは、この寺の住持と、麓の村の地主とであって、いずれもまだ還暦にはならない。