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こたんのふうかくをはいす
枯淡の風格を排す
「作品 第六巻第五号」1935(昭和10)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,411 字 · 15 页
過まられ毒せられたか分らない。肉体をもたない悩みはまことの悩みではない。況んや肉体を始めから醜なりと断定し、その過った断定にとらわれて、そこから逃げ出し目を掩うべく悩みつづける、そういう空虚な悩み方は宗教家でさえ心ある人々は不当とする。正宗氏の人生は成程悩みつづけた人生であるかも知れぬが、まことは悩むべきことに悩まなかった、「童貞主義者」流の悩みにすぎない。彼の持ち前の峻烈な自己批判によって、その童貞主義者流の醜怪さが多少救われていると思わしめるほどの曲りくねった筆力はあるにしても、所詮は、貧弱な肉体の情慾が醜く猛獣の性慾が壮観である底の架空なパラドックスを弄してひそかに慰めるに過ぎなかったのだ。痴人語夢の一篇が即ちこのパラドックスを根幹にした作品であって、自らの逃避性にも倦怠した正宗氏が、せいぜい猛獣の壮観的景気をつけるべく色気をだしたのであろうが、結局まことに地についた肉の悩みとは縁遠い、空虚な想像された人生の断片をのぞかせてくれたに過ぎなかった。
徳田秋声氏「旅日記」(文芸春秋)は冒頭に述べた「枯淡なる風格」的文章の代表的なものである。ここでは枯淡ということが、隠すべからざるところにも目を掩い、悩むべきところにも悩むまいとする毒々しさと、全く同義である。