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かれぎくのかげ

枯菊の影

寺田 寅彦

「ホトトギス 第十巻第五号」1907(明治40)年2月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,543 字 · 14 页

青空文庫

工科は数学が要るそうだからやめた。医科は死骸を解剖すると聞いたから断った。そして父の云うままに進まぬながら法科へはいって政治をやった。父は附け焼刃はせぬ/\と思いながら、ついに独り子に附け焼刃の政治科を修めさせた事になる。しかしこれは恐らく誰の罪でもあるまい。自分はこの事を考えると、何よりも年老いた父に気の毒だ。せっかく一身を立てさせようと思えばこそ、祖先伝来の田地を減らしてまで学資を給してくれた父を、まあ失望させたような有様で、草深い田舎にこの年まで燻ぶらせているかと思うと、何となく悲しい心持になってしまうのだ。三十にしてなお俗吏なりと云うような句があったと思うが、自分の今は正にそれである。今年の文官試験にも残念ながら落第してしまった。課長の処へ挨拶に行ったら、仕方がないまたやるさと云ってくれた。自分もそう思った。去年の試験にしくじった時もやはり仕方がないと思ったが、その時の仕方がないと今度のとは少し心持が違う。去年のは何処か快活な、希望の力の籠った「仕方がない」であったが、今度のにはもう弱い失望の嘆声が少し加わったように思われる。自分ながら心細い。