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そめきちのしゅぼん
染吉の朱盆
国枝 史郎
「サンデー毎日」1927(昭和2)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 页
「こんなことめったにないんだがねえ」
お吉いよいよ心配そうである。
「そうだ実際お上のご用で、遠ッ走りをする時の外は、決して泊って来ねえのが、岡八兄貴のいい所でしたね。……ふうむ、こいつァ変梃だぞ」腕をこまぬいたものである。
八
これから半九郎の活動になる。
道をあるきながら考え込んでしまった。
「俺がああいう話をした。それで兄貴が飛び出した。そうして二晩も帰って来ない。といって真面目なあの兄貴、岡場所にひっかかる筈もない。遠ッ走りをしたのなら、あの仲のいいお吉姐御にあらかじめ話して行く筈だ。ふうん、ふうん、解らねえなあ」
どうにも見当がつかなかった。
「何んだか俺には厭な気がするよ。変事でもありゃァしないかな? 兄貴のことだ、大丈夫だろうが名人の手からだって水は洩れる。――どだい俺等の話を聞いて、飛出して行ったというやつが、その名人の水洩れだからなあ。ふうん、ふうんわからねえなあ」
矢張りどうにも見当がつかない。
「ええと筋立てて考えてみよう。……兎に角俺等の物語りの、謎解きをしようと出かけたというからこいつはこのまま信じるとして、真っ先にどこへ行くだろう? ……さあ真っ先にどこへゆくだろう?」