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そめきちのしゅぼん
染吉の朱盆
国枝 史郎
「サンデー毎日」1927(昭和2)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,824 字 · 35 页
その揚句地下道から逃げられやがった! え、大将を捕まえたと? ムダなことをしたものさ! ……俺等もう一度あそこへ行きてえ」
だが半九郎笑止らしくいった。
「だがね、兄貴、俺等の話した、あのお縫様屋敷の因果物語りはね……」
「作り話だというのだろう」
「へえ、そいつを知っていたのかえ?」
「あんまり辻褄があっているからさ」
一〇
それから岡八嘲るように、ニヤニヤ笑いながらいい出した。
「巧んだ事件というやつは、例えどんなにコンガラガッていても、どこかで辻褄が合うものだ。作り話だって同じだァね。だがあの話は面白かった。旨く辻褄を合わせて見せよう。第一に辻斬の侍だが、ありゃァ将軍家ご連枝の、若殿様と見立てるんだなあ。新刀試しをしたことにするさ。お縫様屋敷のあの辺は、人家がなくて寂しくて、そんなことをするにはいい場所だ。捕方の連中に囲まれた時ポンと胸のあたりを打ったというから、こいつを大いに役たたせよう。葵の御紋があったとするのさ。満月の晩だからよく解らあ。で、捕方の面々ども、手が出せなくて『へー』と平伏……これだけで片がつくじゃァねえか。……切りたおされた手代だが、染吉の朱盆を持っていたとするさ。