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りゅうえいひろくかつえぐら
柳営秘録かつえ蔵
国枝 史郎
「国民新聞」1926(大正15)年1月5日~15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,933 字 · 27 页
しかし老人は居なかった。
「はてな?」と小首を傾げた時、正面の壁が左右へあいた。
「ここだここだ」と云う声がした。
「これじゃアまるで化物屋敷だ」
またも度胆を抜かれたが、そこは大胆の鬼小僧、かまわず中に入って行った。地下へ下りる階段があった。それを下へ下りた。畳数にして五十畳、広い部屋が作られてあった。しかも日本流の部屋ではない。阿蘭陀風の洋室であった。書棚に積まれた万巻の書、巨大な卓のその上には、精巧な地球儀が置いてあった。椅子の一つに腰かけているのが、例の鶴髪の老人であった。
ここに至って鬼小僧は、完全に度胆を抜かれてしまった。で、ベタベタと床の上に坐った。その床には青と黄との、浮模様絨氈が敷き詰められてあった。昼のように煌々と明るいのは、ギヤマン細工の花ランプが、天井から下っているからであった。
「雲州の庭、よく解ったな」
老人はこう云うと微笑した。手には洋書を持っていた。
「へえ、随分考えました。……雲州様なら松江侯、すなわち松平出雲守様、出雲守様ときたひには、不昧様以来の風流のお家、その奥庭の結構は名高いものでございます。……雲州の庭というからには、そのお庭に相違ないと、こう目星を付けましたので」