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かきいろのかみふうせん

柿色の紙風船

海野 十三

「新青年」1934(昭和9)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,032 字 · 28 页

青空文庫

――私は臆面もなく、店先へ腰を下した。

「いらっしゃいまし。何、あげます?」

と小僧さんが尋ねた。

「ああ、紙風船が欲しいのですがネ、すこし注文があるので、一ついろいろ見せて下さい」

「よろしゅうございます。――紙風船といいますと、こんなところで……」

と小僧さんは指さした。なんのことだ、私の坐った膝の前、あの懐しい紙風船が山と積まれているのだ。

(おお。――)

私の胸は早鐘のように鳴りだした。風船を両手でかき集め、しっかり圧えたい衝動に駆られた。だが私も、刑務所生活をして、いやにキョトキョトして来たものである。

「そうですネ。――」

と私は無理に気を落ち着けて、風船の山を上から下へと調べていった。

(柿色の風船は?)

無い、無い。無いことはないのだが……。およそ私の居た刑務所の紙風船は、一つのこらずこの丸福商店に買われることになっているのだ。それは刑務所で入札の結果、本年も紙風船は丸福に落ちていたのだった。だから柿色の紙風船は、この店にあるより外に、行く先がなかった。売れたのかしら?

「……もう風船はないのですか」

「唯今、これだけで……」

「そうですか。どこかにしまってあるんじゃないですか」