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こうしじまのもうふ

格子縞の毛布

宮本 百合子

「婦人公論」1926(大正15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,755 字 · 6 页

青空文庫

ここに一つ、いほの困ることがあった。それはほかでもない。臭いことだ。従卒は、こんなにも馬とぴったり隣合わせに暮して、馬臭くならなければならないのだろうか? 板の羽目一重の彼方が厩、此方が夫婦の部屋。いほはよい眠りてであったから、夜中に二匹の馬が魘(うな)されるのや無礼に水を迸(ほとばし)らせる音は聴かなかった。然し臭い。部屋がくさいばかりではない。夫の皮膚(かわ)まで、まるでまるで馬そっくりに臭いのであった。

いほは、夫の馬臭さから、もっと大事な物が、ひどく心配になり出した。あの大切な長襦袢や伊達巻も、若しや夫のように臭くなっていはしないだろうか。彼女は、行李を引ずり出した。蓋をあけ、一つ一つ鼻に押し当てて嗅いで見た。――悲しいことに、いほの気のつきようがおそかった。もう手後れであった。可愛い花友禅の襦袢も、つるつる光る紫繻子の伊達巻も、色こそもとのままだが、馬臭い、臭い! ほかの何の匂いもしはしない! いほは、泣顔で厩にかけつけた。馬は平気で、長い面(かお)を動かした。

ちぢれた頭を垂れていほは長いこと思案した。彼女は、遂に大きな風呂敷包みを一つ拵え、悄(しお)れて丘の下の煙草屋へ行った。