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けいまのげんそう

桂馬の幻想

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页

青空文庫

しかし、なんしろ、この山上から病人を大八車につんで降すんですから、病人をガンジガラメに車にしばりつけましてね。ガッタンゴットン荒れ放題にひきずり降すんでしょう。ま、手心次第というものですね。闇夜のことだし。病死は絶対なんですがね」

「なるほど。で、怖くないのかね」

「何がですか。人生は怖いものばかりですよ。こゝに限って何が怖いことがあるものですか。素直にかえった人間は子供なんです。彼の目に見えるものは全てが母親のやさしさだけです。ボクはふるさとに住んでるのです。ほら、母親がでてきました。母親は子供が心配なんです。叱りたくなるんですね。で、ボクは叱られないように沈黙しましょう」

色のまッ黒い母親が二人の一間ほどの距離まで近づいて立ちどまった。野村をジッと見つめているだけで、今日は言葉の丸太ン棒をくりだそうとする様子がない。女占い師の無言の威勢を認めることができた。二十四五の出戻りだという村人の話であったが見たところは二十そこそこの田舎娘の稚さが骨格たくましい全身にただよっているようだ。もっとも面相もただ逞しく、胸にオッパイがもりあがってそれが女らしいというだけで、セメント細工の感じであった。