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けいまのげんそう
桂馬の幻想
「小説新潮 第八巻第一六号」1954(昭和29)年12月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,784 字 · 28 页
彼女はすでに物分りがよかった。今日は客人をもてなす日なのだ。都会の虫ケラをも亭主の昔の仲間として、いたわってくれるつもりなのである。
「たんとおあがり」
「うむ、これはうまい!」
野村はつかえがおりたような気持になった。遠慮というものを忘れたような解放された気持になったのである。くさりかけたイモであったが、食慾はフシギに衰えなかったほどである。
「しかし、もう再び来るところではないな」
とイモを食いあいた時に思ったのである。虫ケラの生活にもさしたる魅力があるわけではないが、先祖の大婆サンと好んで共同生活をいとなむことがより良い生活とも思われない。
「キミは適所を得たらしいが、オレは再びキミを訪ねないぜ」
と野村は念を押して別れを告げたのである。念を押さずにいられないような妙な不安におそわれたからである。