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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

甚だしきに到っては元来上懸の発声と仮名扱いを以て謡うべき観世流の人々までが、滔々として翁一流の下懸式呂張を根柢とした豪壮一本調子な喜多流擬いの節調を学び初め、観世流の美点を没却した憾があった。

かような翁の無敵の感化力が如何に徹底したものであったかは、後年観世流を学んでいた吉村稱氏が翁の歿後一度上京して帰来するや、

「福岡の観世流は間違っている。皆只圓先生の真似をして喜多流の節を謡っている。観世流は上懸で声の出所が違うのだから節も違わなければならぬ」

と大声疾呼して大いに上懸式の謡い方を鼓吹した一事を以てしても十分に察せられるであろう。

日本の辺鄙福岡地方の能楽を率いて洋風滔々の激流に対抗し、毅然としてこの国粋芸術を恪守し、敬神敦厚の美風を支持したのは翁一人の功績であった。翁は福岡の誇りとするに足る隠れたる偉人高士であったと断言しても、決して過当でない事が、茲に於て首肯されるであろう。

同時にその間に於て翁が如何に酬いられぬ努力を竭し、人知れぬ精魂を空費して来たか。国粋中の国粋たる能楽の神髄を体得してこれを人格化し凜々たる余徳を今日に伝えて来たか。