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うめづしえんおうでん

梅津只円翁伝

杉山 萠円

「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页

青空文庫

「ソラソラ。廻り返し、仕かけ開き……今度が左右じゃ」

といった風に一々号令して教え込んだ。翁に亀の子のように吊り提げられながら、その通りに手足を動かして行く筆者の姿は随分珍な図であったろうと思う。翁はその序に遺恨骨髄に徹している筆者の頭を張扇でポンとたたいて、

「……片端から忘れるなあ、アンタは……ここには何の這入っておるとな」

と皮肉った事もあった。

遺憾ながらその頃の筆者は頭の中に脳味噌が詰まっている事を知らなかったが、翁は知っていたと見える。

◇

一番情なかったのは「小鍛冶」の稽古であった。

筆者が十二歳になった春と思う。光雲神社の神事能の初番に出るというので、祖父母、筆者と共に翁も非常な意気込であったらしいが、それだけに稽古も烈しかった。

当日まで一箇月ばかりは毎日のように中庄の翁の舞台へ逐い遣られたものであった。途中で溝の中の蛙をイジメたり、白蓮華を探したりして、道草を喰い喰い、それこそ屠所の羊の思いで翁の門を潜ると、待ち構えている翁は虎が兎を掠めるように筆者を舞台へ連れて行く。「壁に耳。岩のもの云う」と子供心にも面白くない初同が済んで、「そオれ漢王三尺のげいの剣」