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うめづしえんおうでん
梅津只円翁伝
杉山 萠円
「福岡日日新聞」1934(昭和9)年4月14日~5月31日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 65,582 字 · 130 页
筆者はその時、「小袖曾我」のシテを承っていたが、筆者の装束を着けていた高弟の某氏(秘名)が筆者の小さなチンポコを指の先でチョイと弾じいた。筆者は直ぐに両手でそこを押えて、「痛い痛い」と金切声を揚げたので近まりに居た高弟諸氏がドッと笑い崩れた。
隣の居間から見ていた翁の顔色が見る見る変った。某氏を呼付けて非常な見幕で叱責した。
「楽屋を何と心得ているか。子供とはいえシテはシテである。シテは舞台の神様で能の守本尊である。そのシテを戯弄するような不心得の者は許さぬ。直ぐに帰れ。一刻も楽屋に居る事はならぬ。装束は俺が付ける。帰れ帰れ」
といったような文句であったと思う。
某氏は平あやまりに詫まった。ほかの一緒に笑った人々も代る代る翁に取做したので結局、翁の命令でその笑った四五人の中老人ばかりが、床几に腰をかけている筆者の前にズラリと両手を支えてあやまった。
「ただ今は存じがけもない御無礼を仕りまして……今後、決して致しませぬけに、何卒御勘弁を……」
筆者は弱った。どうしていいかわからないまま固くなって翁の顔を見た。翁はまだ眉を逆立てたまま向うから睨み付けていた。