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ばいしのつえ
梅颸の杖
吉川 英治
「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页
きっと叱ろうぞ、と心を鬼に、この杖を持っての……』
身を起した。そしていつもそばに離さぬ杖を、山陽の前に置いた。
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芸州の城下には、よく九州や広島へ旅する文人や画家が足をとめて、その土地が、山陽の郷里であるところから、自然と、彼に反感をもつ者の悪罵なども言いふらされた。
彼は拝金家だという者がある。彼の家へ行って酒が出れば、いつも肴は塩鮭ときまっている。それで口には贅沢を言い、人の馳走ならば、徹宵の快飲もやる。実に見えすいているじゃないかと。
又、斯くそしる者もあった。
日本外史、あれはまだ完稿にならないから、内容について、批評の時期ではないが、およそは知れたものだろう。彼は、あれを版行の前から上手に宣伝をし、儲けようという腹のほかはない。松平楽翁に取り入って、幕府の御用学者になろうとする野心さえある。外史ばかりでなく、彼の詩、彼の書、みんな商品だ。水西荘の玄関には、半切幾価、屏風いくらと、貼り出してあるという話じゃないか。
又、嘲笑して、説をなす者があった。
それよりは、女弟子の江馬細香女史と山陽との古い交誼こそ問題じゃないか。