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ばいしのつえ

梅颸の杖

吉川 英治

「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页

青空文庫

一図な心配も無理ではない。彼女は寝ずに、京都のわが子を案じつづけた。

或る日。――彼女は思い余って、

『茶山様、ご在宅でござりますか』

黄葉落陽村舎、管茶山の塾を訪れて、一本の杖に、歌を求めた。

茶山は、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)の憂いを聞いて、

『ご尤もじゃ』

と、同情した。

『何やかと、世間でいう噂は、まことでござりましょうかの』

『あの仁の天性とみえる』

茶山は、暗に裏書きをした。

梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)は、眼を曇らして、

『その心を撓めるように、ぜひ、大先輩のあなた様のお歌なり、詩なりとも、これへ』

と、前の杖を出した。

わけを訊くと、杖は、使用したことはないが、亡夫春水の愛杖であるという。そして、こんどの上京には、父にかわって、襄を打って意見をするつもりだと話した。

茶山は、ちょっと当惑した。なるほど、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)から見れば、山陽はたとえ短い間でも、自分の塾に門生としていた関係があるから師の諫なら胆に銘じるものと考えたのであろうが、どうして、彼と来ては父春水をさえ道学先生と侮り、茶山なども愚にしていた男だ。