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ばいしのつえ

梅颸の杖

吉川 英治

「文藝春秋 オール読物号」1930(昭和5)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,966 字 · 32 页

青空文庫

あとから聞きつけた者が、ここへも、ちらほらと刺を通じて、見舞をのべに訪れた。が彼は、この寛ぎを失うのと、母の疲れを惧れて、宿の者にふくめて、ていねいに断らせた。

そこへ、一荷の鮮魚が、贈り物として、母子の間に運ばれた。

『どなたからじゃ』

取次いだ宿の女中も分らない顔をして、

『室津から同船した者といえば分る。お見それして、飛んだ失礼をしました。これをお慰みに上げてくれと言って、置いておいでになりました』

『では、大塩組のお役人か』

『いいえ、三尺帯を締めた色の小白い町人衆でございますが』

『名は』

『告げずに行ってしまいました』

山陽は笑った。

『人違いだろう。食べた後で、取り返しに来られては困る。下げてくれ』

『でも、はっきりと、頼先生のお年より様に、と申しましたが』

梅は、女中の困った顔つきを救ってやるように、

『よい、よい。あちらへ下げて、みんなして食べたがよい』

と、言った。

膳が来て、梅※(「風にょう+思」、第4水準2-92-36)、山陽、小竹、松蔭、その他の者とが静かに杯を交し始めてからも、そのことで笑った。

『母上には、何かお心当りがあったのでございますか』