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きょうゆう
梟雄
「文藝春秋 第三一巻第八号」1953(昭和28)年6月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,160 字 · 31 页
彼が長井氏の正しい宗家たることを認めない一族に対しては、長井宗家の名に於て遠慮なく断罪した。
「長井の血に於て異端を断つ」
それが罪状の宣告である。正義とは力なのだ。
妙椿は長井新九郎のやり方が面白いようにも思ったが、なんとなく大人げないようにも思った。
「長井にこだわりすぎやしないか。お前はお前であった方が、なおよいと思うが」
「お前と仰有いますが、長井新九郎のほかの者はおりません。拙者は長井新九郎」
「なるほど」
坊主あがりの妙椿は、新九郎が禅機を説いているのだなと思った。痴人なお汲むナントカの水という禅話がある。痴人にされては、かなわない。
「拙者は長井新九郎」
新九郎は腹の底からゆすりあげるように高笑いした。
法蓮坊の屈辱をいま返しているのかも知れなかった。売僧をも無双の名僧智識に仕立てることができたであろう長井の門地はいま彼自身である。
妙椿は新九郎がたぶん禅機を還俗させたようなシャレを行っているのだろうと思っていた。そして、彼の本心を知ったならば、身の毛のよだつ思いがしたかも知れない。なぜなら、新九郎は自分の血管を流れはじめた長井の血を本当に見つめていたからである。