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きょうゆう

梟雄

坂口 安吾

「文藝春秋 第三一巻第八号」1953(昭和28)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,160 字 · 31 页

青空文庫

したがって最初に生れた長男の義龍は、実は土岐の血統だった。

もっとも、この事実の証人はいなかった。ただ義龍がそう信じたにすぎないのかも知れない。道三はそれに対して答えたことがなかった。

義龍は生れた時から父に可愛がられたことがない。長じて、身長六尺五寸の大男になった。いわば鬼子である。しかし、道三はそうは云わない。

「あれはバカだ」

と云った。

ところが、義龍は聡明だった。衆目の見るところ、そうだった。その上、大そう努力勉強家で、軍書に仏書に聖賢の書に目をさらし、常住座臥怠るところがない。父道三を憎む以外は、すべてが聖賢の道にかなっているようであった。

道三は義龍の名前の代りに六尺五寸とよんでいた。

「生きている聖人君子は、つまりバカだな。六尺五寸の大バカだ」

道三はそう云った。そして次男の孫四郎と三男の喜平次とその妹の濃姫を溺愛した。

「孫四郎と喜平次は利発だな。なかなか見どころがある」

道三は人にこう云ったが、次男と三男は平凡な子供であった。彼は下の子ほど可愛がっていた。

天文十六年九月二十二日のことであったが、尾張の織田信秀が美濃へ攻めこんだ。稲葉城下まで押し寄せて町を焼き払ったまではよかったが、夕方突然道三の奇襲を受けて総くずれになり、五千の屍体をのこして、わずかに尾張へ逃げ戻ったのである。